人間は生まれただけで罪びと!?

昨日の授業ではふとしたきっかけで、

キリスト教の「原罪」が話題になりましたね。

人間は生まれながらに罪がある。

僕も同感ですが、どうしても無宗教の私たちから見ると、

信者獲得のためのえげつないマーケティングに感じるのは仕方のないことかなと思います。

僕は今では「人間には生まれながらに罪がある」という感覚が

実に美しいものだと感じられるようになったのは、

下記「カラマーゾフの兄弟」の一節を読んだことがきっかけの一つです。

このエピソードはとても短く、また読むたびに泣けてしまいます。

本作品の主要人物であるゾシマ長老が幼少時代を振り返ります。

彼には若くして死んだ兄がいました。
病気にかかり、余命を悟ると、それまで教会にも行かなかった兄が突然精神的に変わり始めたのです。

 

「もうひとつ、母さんに言っておくけど、

ぼくらはみんな、すべての人に対してすべての点で罪があるんだよ、

ぼくはそのなかでもいちばん罪が重い」
それを聞いた母は、つい笑みをもらし、ひとしきり泣いてはまたほほえむのだった。

「いったいどういうわけで、おまえはほかのだれより罪が重いっていうんだい?」と母はたずねた。
「世の中には人殺しもいれば強盗もいるっていうのに、

おまえはどんな罪をおかしたと言って、自分をいちばん責めたりしているのだい?」
「母さん、(中略)わかってほしいのは、ほんとうに人間のだれもが、

すべての人、すべてのものに対して罪があるということなんだ。

これを、どううまく説明したらよいかぼくにはわからないけれど、

でも、このことをほんとうに苦しいぐらいに感じているのさ。

それなのにどうしてぼくらは、腹を立て、何も気づかずに生きてこれたんだろうね?」

(中略)

「ひとりであんまりたくさん罪を背負いすぎているよ」

母は泣きながら話していたものだった。
「母さん、ぼくの喜びの人。

ぼくがこうして泣いているのは楽しいからで、悲しみのせいじゃないんだよ。

だってぼくはね、あの人たちにたいして、自分から罪人でありたいって思っているんだから。

ただ、そこのところがうまく説明できない。

美とか栄光とかを、どうやって愛したらよいかわからないからね。

すべてに対して、ぼくは罪があるけど、でもそのかわり、ぼくのことはみんなが許してくれている。

これが天国っていうものなのさ。いったい、ぼくがいまいるのは天国じゃないとでもいうのかい?」

―カラマーゾフの兄弟2(古典新訳文庫)

 

 

これを打ちながらも涙と鼻水がでてしまった(´;ω;`)

僕はクリスチャンでもなんでもないですが、

いくらクリスチャンだからといってもここまでの文章は書けないようにも思えます。

やはり、ドストエフスキーは天才です。

 

僕らは生きていく中で多くの罪を重ねています。

それは法律に触れるという意味ではなく、

自分が存在しているだけで、誰かの迷惑や妨げになっていることばかりです。

数年前、故郷に久しぶりに帰って、市民プールに入りました。

なかなか勝手がわからず、整髪剤を洗い流さずにプールに入ってしまったんですね。

あとから悪いことをしたなと思いつつ、

その整髪剤はプールを漂い、誰かの口の中に入っているかもしれないと思いました。

整髪剤を例にとりましたが、

プールなんていうものは悪く言えば汚いものが漂っています。

いくら身体を完璧に洗っても、無理があります。

汗や唾液はかならず、流れ出て、プールを汚すのです。

これは日常生活における私たちの「罪」と同様じゃないでしょうか。

ただ生きていても、何らかの迷惑や妨げになっている。

でも、僕らは神経質になることをやめて、プールで泳ぎます。

つまり、自分たちは罪びとでありながらも、誰かの罪を許している。

そして、そういった考えの何が良いかというと、

僕はその整髪剤に流さずにプールに入ってしまったことで、

プールで無邪気に泳いでいる人々に対して申し訳ないと思い、

それがきっかけで素性の知らない彼らに感謝の気持ちを覚え、

精神的な「繋がり」を覚えたことです。

もし、罪悪感を持っていなかったら、

同時間帯にプールに泳いでいた人など気にもとめませんでした。

自分は誰かに罪を犯しているという感覚は

小説中の「兄」の指摘するように決して悪いものではなく、

むしろ、この世界は誰かが誰かを許しあっているという感覚に繋がってゆく。

もし、自分が誰にも迷惑をかけずに生きていると考えるならば、

それはすなわち誰との関係をも感じることができません。

しかし、罪を犯していると知ることで、

この世界はとても寛容なものであると気づけるし、

また誰かの罪に対して自分も寛容でありたいと思えるのではないでしょうか。

 

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