授業記録:文学入門 ボヴァリー夫人

不倫と散財に走る人妻の物語

本日は「文学入門 ボヴァリー夫人」を開催しました。

この作品は世界十大文学として選出されています。
ちなみに、フランス文学からのエントリーは三作品で、
「ボヴァリー夫人」と、「赤と黒」、そして「ゴリオ爺さん」です。

この作品から「ボヴァリズム」という言葉が生まれました。
「ボヴァリズム」とは、現実と理想の相克に悩む姿勢のことを指します。

この作品の特徴は、
実在した不倫スキャンダルを題材にしているということです。

筋書きとしては非常にシンプルです。
ある人妻が夫以外の男性たちと関係を結び、
また散財に溺れていくことで首が回らなくなり
最後は自殺を選びます。

そう、現実と理想の相克に耐えられなかったのがボヴァリー夫人なのです。

幸せなのに不幸、それが一番不幸だということ

夫は医者で、自分の事を心から愛してくれている。
経済的にも貧しいわけでもない。
ところが、なぜか言いようのない不満が募っていく。

ボヴァリー夫人の欲求不満は、決して「性欲」だけで片づけられるものではありません。
人間は物質的に満たされているのにも関わらず、
精神が満たされていないと知ったとき、真の不安を覚えるのです。

お金がないときの不安とは別物なのです。
お金がなくて不幸ならば、自分でも不幸の理由が分かっています。
よって、お金を稼げばいいという解決策も浮かびます。

しかし、経済的に満たされているにも関わらず、
自分が不幸であると知ったときこそ、不幸なことはありません。

ボヴァリー夫人にとって、
不倫や散財はその不安を埋めてくれるかもしれないという希望なのです。
しかし、残念ながら不安はとどまることをしりません。

題材自体は週刊誌が取り上げるような世俗的な事件です。
しかし、著者フローベールはその夫人に近代人特有の悩みを見つけたのです。

「ボヴァリー夫人は私である」

著者であるフローベールは、「ボヴァリー夫人は私である」と言いました。
彼自身が、満たされぬ不安や不満、
そして満たそうとすれば社会から逸脱するかもしれない恐怖を感じていました。
ボヴァリー夫人というキャラクターを纏うことで、その不安や不満をフローベールは描きました。
女性のふりをして執筆した土佐日記と似ているかもしれません。

実はこのヒット作を描く前に、フローベールはある小説を完成させていました。
ところが、友人たちに呼んでもらうと酷評の嵐。
その小説はとても宗教的な小説で、神などが登場する現実離れしたものでした。

なくなく、彼は宗教的な題材を諦め、実在する不倫スキャンダルを題材に執筆を開始。
これが大ヒットし、一躍、フローベールは人気作家の仲間入りを果たします。

しかし、彼の描きたい小説と、売れる小説には乖離がありました。
そう、やはりフローベール自身もボヴァリズムに悩まされていたのでした。

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