あなたは何に対するプロテスタント?

古典教養大学学長の宮下です。

 

昨夜のテーマは宗教改革。

テーマそのものは地味ですが、

プロテスタント(反抗する者)の意味を理解したとき、

誰もが何かへのプロテスタントなのだと悟ります。

 

この流れで紹介したいのは、

ドイツの社会学者であるマックス・ヴェーバー。

 

彼の書いた「職業としての政治」「職業としての学問」は胸が熱くなります。

 

 

当時、第一次世界大戦末期だったドイツは、

すがることができるカリスマ的存在を求めていたといいます。

ヴェーバーはそれに警鐘を鳴らしました。

(残念ながら、結局その後ドイツはヒトラーを生んでしますが)

 

以下は、学生に向けた講演会の一部です。

偶然にも、彼はルターを引用しています。

 

10人のうちの9人までは、自分の負っている責任を実感しておらず、

ロマンチックな情緒に酔っているだけのほら吹きだという印象をうけるのだ。

 

わたしは、人間としてはこうした人にあまり関心をもてないのですし、

いかなる感動もうけないのです。

 

反対にわたしが計り知れないほどの感動をうけるのは、

結果に対する責任を実際に、しかも心の底から感じていて、

責任倫理のもとで行動する成熟した人が、

あるところまで到達して、[ルターのように]

「こうするしかありません、わたしはここに立っています。」と語る場合です。

 

「職業としての政治」

 

僕のビジョンは、とか、僕の使命は、とか、

やたらと大言壮語に語る人が増えましたが、

彼の言葉を聞くと、果たしてそこまでの「覚悟」があるのか、

もちろん自分も含めて考えてしまいます。

 

 

「こうするしかありません、わたしはここに立っています。」

 

これ、涙が出るほど、感動します。

ルターと自分を比べるのはあさましいですが、

それでも、僕もこの想いでいっぱいです。

 

人よりだいぶ変わった人間である僕は、もう他の道なんてないのですよ。

 

世の中の流れとか、流行とか、

こっちにいけばもっと儲かるっていうのは分かっています。

 

正直、僕は喋りが下手でもありませんから、

「アリストテレス」を受講生たちに優しく語る能力を使って、

悪徳な商品を売ることだって容易にできると思います。

 

もちろん、悪徳な商品を売ったことありませんが、

それでも自分では納得していないのに求められたから売ったことや、

売りたくもない人に売ったことはあります。

 

それは、自分の存在が張り裂けそうになるくらい、しんどいことでした。

 

お金がなくては生きていけない、という意見もありますが、

自分の信条を譲っていたら生きていけない、というほうが正しいです。

貧乏で死ぬことはなくても、信条を譲って死ぬ(死にたくなる)ことはあります。

 

だから、僕は古典教養大学というのは、

40人程度の会員で、まだまだ小さいですが、

それでもとても幸せなのです。

 

「こうするしかありません、わたしはここに立っています。」

 

まさにこのとおりなのです。

 

とはいえ、大成功間違いなしのビジネスではありません。

 

 

だって、今の時流に乗っている、

なんでも答えを提供する自己啓発的な風潮に反抗しているわけです。

風潮に乗っかったほうが絶対に儲かる。

 

いつしか、世の中に教養の大切さがあまねく知れ渡る日が来るかもしれません。

しかし、それは僕が生きている時代ではないことは分かっています。

 

最後に紹介するヴェーバーの言葉。

主語は「政治」となっていますが、

もしこれを読んでいるあなたがその職業に命を懸けているならば、

すべてにあてはまるメッセージかと思います。

 

政治という仕事は、

情熱と判断力の両方を使いながら、

固い板に力をこめて、

ゆっくりと穴を開けていくような仕事です。

 

世界のうちで不可能と思われることに取り組むことがなければ、

いま可能と思われることも実現できないことはたしかですし、

歴史が示す経験からも、それは確かなことです。

 

「職業としての政治」

 

だから、この大学も
焦らず、

むしろ正しく的確にゆっくりとたゆまずに穴を空けていきたいと思います。

自分の人生のうちに終わらない目標だとしても、

それくらいの目標を持っていなければ、

そもそも今できることもできなくなってしまう。まさにその通りですね。

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