授業記録:哲学入門 J・S・ミル

国家、宗教、僕らの自由を妨げる最後の砦は?

先日は「哲学入門 J・S・ミル」を開催しました。

今こそ読むべき哲学書として名高い「自由論」
この不朽の名作を著したのはミルでした。

彼は心から望みました。
人々が自由に暮らすことのできる理想の社会を。

彼が生きたのは1800年代。
王や貴族、宗教の束縛から解き放たれ、
いよいよ一般市民の権利が認められはじめた時代でした。

歴史において人々の自由を奪ってきたのは、
国家、そして宗教でした。
そして、いよいよこの二つから解放されつつある今、
ミルは、「いや、これから第三の要素が人々の自由を束縛する」と予言したのです。

第三の要素、自由を妨げる最後の砦とは何か?
それは、人々の中の「多数派」です。

人々が自由になれば、多数派と少数派が生まれる

国家や宗教に抑圧されていれば、
人々の思想やライフスタイルに違いは生まれません。

しかし、自由を手にした人々が必ずしも、
十人十色、1億人がいれば1億通りの思想やライフスタイルを持つわけではありません。
そこには必ず多数派と少数派が生まれるものです。

実際、少数派の問題は2023年の現在でも解決されていません。
性的マイノリティや少数民族は、常に多数派に抑圧されます。
「男性は女性を好きになるべきだ、なのになぜ男性を好きになるのだ?」
こうして、価値観を押しつけるのです。

人々が自由を手に入れたとき、
自由を束縛したのは結局人々だったのです。
つまり、われわれ自身だったのです。

人々が自由になれば、多数派と少数派が生まれる

ミルの時代は、現代よりもさらに多数派が正義でした。
また、新聞などのメディアが発達したこともあいまって、
多数派の正義は無言の圧力を少数派にかけました。

たとえば、イギリスのようなクリスチャンの国において無神論者は不正義でした。
しかし、ミルは言います。
「有神論者もいれば、無神論者もいる。
さまざまな意見が存在することで社会は発展する。」

多数派だって、皆が喜んで多数派なわけではない。
仲間外れになるのを恐れて意見を合わせたり、
もしくは考えるのが面倒だから多数派に意見を合わせるのではないでしょうか。

ミルは、神から与えられた自由意志、選択する能力を十分に使うべきだと主張します。
選択すれば、失敗します。少数派になります。
しかし、人は失敗から学び、自分の物語を作り、個性を完成させるのです。
よく大失敗した経験はすべらない話になりますが、そういうことです。

失敗し、経験するには、少数派になることを恐れてはいけない。
少数派になることは怖いことであると思わせる社会であってはならない。
多様性が尊ばれる現代において、「自由論」が今こそ読まれるべき理由をご理解いただけたでしょうか?

 

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