正解ではない答えが視野を広げる

「文学入門 源氏物語」の一幕

昨夜は「文学入門 源氏物語」の授業でした。
女性は今までに何度かこの作品に触れた方が多く、
男性は読まれた方は少ないというのが僕の印象です。

とはいえ、読まれたことがあっても、
日々の生活の中でおぼろげになってしまうのも事実。

読まれた方は記憶を呼び戻す、
読まれていない方はこの文学の魅力を味わう、
そんな授業でした。

「あなただったらどうする?」を考える

当大学の授業では一回に三度のワークショップを実施します。
これが面白い。
それは僕にとって(笑)
いや、学生さんにとっても面白い。

今回の授業では、
二人の男に言い寄られて悩む(文字面だけ見ると贅沢(笑))
浮舟という女性の心中を察するワークでした。
そして、「あなたが同じ立場に立たされたらどうする?」と考えてもらいました。

ここで大事なのは、実際に浮舟がとった行動などどうでもいいのです。
巷では、教養というのは知識とイコールで考えられてしまっています。
浮舟がどんな行動をとったのか、
きちんと暗唱できたら「頭がいい」と思われがちです。

でも、僕はそれは全然違うと思います。

とある夫婦の会話

そういえば、ある探偵ものの映画を嫁と見ていたときのことです。
ちなみに、嫁は初見ですが、僕は見たことがあります。

男性特有の卑しい気持ちでしょうか(笑)
つい、先の展開を言ってしまいたくなります。
あいつが実は犯人なんだよ~って。

でも、こんなこと話せても
僕のことを「頭がいい」なんて誰も思わないですよね?

ある知識をその人が備えていても、
それは備えていない人と比べて、
たまたま事前にその知識と触れる機会があったにすぎません。
これを美徳とか、偉いとか、言えるのでしょうか。

正解自体に価値はない

探偵ものの映画の話に戻りましょう。

嫁は初見ですから、自分なりの推理を働かせます。
彼女が導いた答えは、実際の犯人とはまったく違います。
犯人も、動機も、手段もまったく違う。
だけど、筋が通っていて、「これもアリだ」と思わせるのです。
よほど、こちらのほうが「頭がいい」と言えるんじゃないでしょうか。

それに比べて、僕は答えを知っているがゆえに、
映画を見ている時間、まったく「考える」ことをしていませんでした。

ちなみに、当大学の学生さんは再受講していただく方がたくさんいます。
彼らは正解を知っているはずですが、
二回目以降の参加のときでもその正解を敢えて外して、
自分なりの答えを作ろうとしているのです。
これには感動します。

正解ではない答えが視野を広げる

浮舟の話に戻りますが、
ある方は「私なら出家する」とお答えになりました。

ただし、実際は自殺(未遂)をしています。
彼女は一命をとりとめ、「そのあと」に出家するのです。

では、「私なら出家する」という答えは無益なのでしょうか。
いや、それどころかタダの正解よりも有益です。

なぜなら、クラス全体にこう考えさせたからです。

「そうだよな、自殺なんてしないで、最初から出家していればよかったんだ。
でも、なんでこのときは自殺しか考えられなかったんだろう?
この時代は誰だって出家することはできなかったのか?
もしくは、追いつめられて、選択肢を狭めてしまったのか?」

こんな問いが出てきます。
この問いを調べてみれば、より深く源氏物語の世界に入っていけるでしょう。

もし、正解を当てにいくつもりで、
「自殺を考える」と答えていたら、実りはまったくありませんでした。

間違いを恐れない。間違いこそが新しい発想を生む。
これが古典教養大学が目指す「考える」力です。

 

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